公開 2026.08.17 ・ 9分で読める
東大おうち塾コラム
音読は意味がないのか。研究で分かっている、効く場合と効かない場合
音読の評価は研究でも一枚岩ではありません。声に出すと記憶は上がりますが、全部を音読すると効果はかなり小さくなり、読解問題には効きません。査読済みの論文9本を確認して、効く場合と効かない場合を整理しました。
野村 理玖
東大おうち塾 代表 / 東京大学 博士課程 / 公開 2026.08.17 / 9分で読める
目次
「音読は意味がない」と「音読はすごく効く」が、同じくらいの勢いで語られています。どちらかが間違っているのではなく、研究の結果そのものが条件によって分かれます。
査読を通った論文で確かめられている範囲を、先に3行で書きます。
声に出して読むと、黙読より記憶に残ります。ここは複数の研究で再現されています。
ただし全部を声に出すと、効果はかなり小さくなります。一部だけを声に出したときに大きく出ます。
音読で上がるのは「書いてあったことを思い出す」力で、読解問題の正答率は上がりません。
つまり音読は、全部にかけるのではなく、かける場所を絞る道具です。順に根拠を示します。
この記事で引用した論文は、2026年8月17日に誌名・巻号・DOIを確認した査読済みのものです。各章末にリンクを置いています。
第01章声に出すと記憶に残る、というところまでは固い
声に出して読んだ単語は、黙読した単語より思い出しやすくなります。この現象は production effect と呼ばれ、2010年に命名されました。
仕組みは「際立ち」で説明されています。声に出した項目は、他とは違う記録として残るため、あとで「これは声に出したものだ」と識別できる。この識別が、思い出す手がかりとして働きます。
単語だけの話ではありません。段落単位で一部を声に出し、他を黙読させた実験では、文章の内容でも効果が確認されています。
出典: MacLeod ほか (2010) Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition 36(3) 671-685 / Ozubko ほか (2012) Memory 20(7) 717-727
第02章全部を音読すると、効果はかなり小さくなる
ここが「意味ない」と言われる理由の中心です。効果の大きさは、声に出す範囲によって変わります。
読み方 | 研究上の呼び方 | 効果の大きさ |
|---|---|---|
一部を声に出し、残りを黙読する | 混合リスト(同一人物の中で比べる) | 大きい。繰り返し確認されている |
全部を声に出す | 純リスト(人ごとに分けて比べる) | メタ分析でようやく検出できる程度に小さい |
文章を全部音読する | 同上(テキストでの検証) | 効果が出なかった報告がある |
2013年のメタ分析は、全部を声に出す条件でも効果はあると結論づけています。ただし複数の研究をまとめて初めて検出できる大きさで、混合リストの効果より「かなり小さい」と後の総説でも整理されています。
2016年の研究は、この差を二階建てで説明しました。声に出すこと自体による小さな強化はどちらの条件でも起きるが、大きいほうの「際立ち」による上乗せは、一部だけ声に出したときにしか乗らない、という説明です。
出典: Fawcett (2013) Acta Psychologica 142(1) 1-5 / Fawcett & Ozubko (2016) Canadian Journal of Experimental Psychology 70(2) 99-115 / MacLeod & Bodner (2017) Current Directions in Psychological Science 26(4) 390-395
第03章音読は覚えるのに効き、読解には効かない
2024年に Memory & Cognition に載った研究が、この点をはっきり分けました。読解問題の文章を材料に、一部を音読、一部を黙読で読ませ、直後の選択式問題を「記憶を問う問題」と「読解を問う問題」に分けて集計したものです。実験は4つ行われています。
結果は、記憶を問う問題では一貫して音読が有利、読解を問う問題では有利にならなかった、というものでした。著者はこれを際立ちの説明と整合すると述べています。
著者自身の言葉では、試験で問われる情報が学習した情報と非常に近い場合にだけ、音読は正答率を上げる、という整理になっています。記憶問題はそれに当たるが、読解問題は当たらない、ということです。
この結果は、教科の選び方に直接つながります。用語や英文のように、覚えた形のまま出てくるものには音読が向きます。現代文の読解のように、書かれていないことを推論して答えるものには向きません。
出典: Roberts ほか (2024) Memory & Cognition 52(1) 57-72
第04章回数を増やすより、思い出す練習に移る
音読の回数を増やし続けるより、思い出す練習に切り替えたほうが記憶に残ります。ここは音読の研究とは別の系統で、より大きな証拠が積まれています。
2006年の研究は、読み直しを繰り返した群とテスト形式で思い出した群を比べ、時間が経ったあとの保持でテスト群が上回ることを示しました。2014年のメタ分析も、思い出す練習が読み直しより保持に効くと結論づけています。
学習法の有効性をまとめた2013年の大規模な総説では、読み直しは有効性が低い方に分類され、練習テストと分散学習が高い方に分類されています。
やること | 総説での位置づけ |
|---|---|
練習テスト(自分で問題を解く、思い出す) | 有効性が高い |
分散学習(間隔をあけて復習する) | 有効性が高い |
読み直し | 有効性が低い |
線を引く、蛍光ペンで塗る | 有効性が低い |
出典: Roediger & Karpicke (2006) Psychological Science 17(3) 249-255 / Rowland (2014) Psychological Bulletin 140(6) 1432-1463 / Dunlosky ほか (2013) Psychological Science in the Public Interest 14(1) 4-58
第05章ここまでを踏まえた、当塾のやり方
この章の数値は研究から出たものではありません。上の知見をもとにした、当塾の運用上の目安です。区別してお読みください。
研究が言っているのは「一部を声に出すと、その部分が残りやすい」までです。どこを選び、何回読むかは決めてくれません。そこは指導する側が決めることになります。
当塾では次のようにしています。
項目 | 当塾の目安 | そうしている理由 |
|---|---|---|
声に出す範囲 | 全部ではなく、覚えたい箇所だけ | 全部音読では際立ちが働かないという知見に合わせるため |
回数 | 同じ箇所は3回まで | 意味の確認・区切り・速さが揃う回数。4回目以降は思い出す練習に回す |
1回目 | 意味を確認する。分からない語句を先に調べる | 意味の分からない音を速く言えても点にならないため |
2回目 | 意味のまとまりで区切って読む | 区切れない文は理解できていない文なので、自分で見つけられる |
3回目 | 止まらない速さまで上げる | 詰まる箇所が浮き上がる |
直後 | 本を閉じて10秒、何が書いてあったかを言う | 読み直しから思い出す練習に切り替えるため |
書き写しをどこまでやるか
当塾では書き写しを単元に入った最初と、漢字が分からないときだけに限っています。写経のように書き写す時間は、思い出す練習になっていないためです。
なお、声に出す以外の産出でも記憶が上がることは報告されています。書く、打つ、綴る、口だけ動かす、いずれも黙読より残るという結果です。ですから書き写しが無駄だという意味ではありません。時間当たりで見ると、思い出す練習に回したほうが取り分が大きい、という判断です。
数学の図と途中式は書いてください。これは書き写しではなく、頭の中だけで処理しないための作業です。
第06章教科ごとの向き不向き
教科・場面 | 音読の向き | 理由 |
|---|---|---|
英語の語彙、英文の型 | 向く | 覚えた形のまま問われるため、記憶問題に近い |
古文単語、古文の文法 | 向く | 同上。区切れない箇所から文法の穴が見つかる |
社会・理科の用語 | 向く | 用語と定義は覚えた形で問われる |
現代文の読解 | 向かない | 読解問題では音読の効果が確認されていない |
英語長文の内容一致 | 限定的 | 語彙と速さの土台には効くが、推論を問う設問には直結しない |
数学の計算 | 向かない | 手を動かす作業のほうが要る。声に出すのは解法の方針だけ |
英語長文について補足します。音読で語彙と読む速さの土台はできますが、それだけで内容一致問題が解けるようにはなりません。訳せても内容を聞かれて答えられないなら、まだ読めていないと考えてください。
第07章よくある質問
音読は意味がないのですか。
条件によります。声に出して読むと黙読より記憶に残ることは複数の研究で確認されています(MacLeod ほか 2010、Ozubko ほか 2012)。ただし全部を声に出すと効果はかなり小さくなり、メタ分析でようやく検出できる程度になります(Fawcett 2013)。文章を全部音読した研究では効果が出なかった報告もあります。一部だけを声に出すと大きく出ます。
音読は読解力を上げますか。
2024年に Memory & Cognition に載った4実験の研究では、記憶を問う問題では音読が一貫して有利でしたが、読解を問う問題では有利になりませんでした(Roberts ほか 2024)。試験で問われる情報が学習した情報とほぼ同じ形のときだけ効く、という整理です。読解力そのものを上げる方法としては期待しないほうがよいと考えられます。
音読は何回すればいいですか。
研究がこの数を決めているわけではありません。当塾では同じ箇所を3回までとし、1回目は意味の確認、2回目は意味の区切り、3回目は速さ、と目的を変えています。4回目以降を同じ読み方で足すより、思い出す練習に移ったほうが保持に効くというのが、練習テストの研究から言えることです(Rowland 2014)。
読み直しを繰り返すのは効きませんか。
学習法の有効性をまとめた2013年の総説では、読み直しは有効性が低い方に分類され、練習テストと分散学習が高い方に分類されています(Dunlosky ほか 2013)。読み直しが無意味という意味ではなく、同じ時間を思い出す練習や間隔をあけた復習に回したほうが取り分が大きい、という位置づけです。
書き写しはしたほうがいいですか。
声に出す以外の産出でも記憶が上がることは報告されており、書く、打つ、綴るといった動作も黙読より残ります。ですから無駄ではありません。ただし時間当たりの取り分では思い出す練習が上回るため、当塾では書き写しを単元の最初と漢字が分からないときに限っています。数学の図と途中式は別で、頭の中だけで処理しないために書いてください。
小学生でも同じ考え方でよいですか。
ここで引用した研究は主に成人を対象にしています。年齢によって結果が変わる可能性があるため、そのまま当てはめられるとは言えません。実際の指導では、1回に読む量を1段落までに区切り、最後に思い出す時間を必ず取る形にしています。
第08章絞って使う
音読の評価が割れるのは、全部音読と一部音読が同じ言葉で語られてきたからだと考えられます。研究が支持しているのは後者です。
覚えたい箇所を選んで声に出し、そのあと本を閉じて思い出す。読解力そのものは別の方法で伸ばす。この切り分けで、同じ時間の使い方が変わります。
思い出す練習そのものについては読んだのに覚えられないのはなぜかで3段階に分けて書いています。研究で確かめられている範囲の全体像は勉強法のまとめページに一覧にしました。
東大おうち塾では初回60分の体験授業を無料で行っています。いまの読み方を見せていただければ、どこを声に出すべきかをその場でお伝えします。
筆者
野村 理玖
東大おうち塾 代表 / 東京大学 博士課程
公開 2026.08.17
麻布高校卒業、東京大学 博士課程在学。公認会計士試験合格。認知心理学に基づいて自分の勉強のやり方を組み立て直した経験から、東大おうち塾を立ち上げました。