公開 2026.07.31 / 更新 2026.08.17 ・ 6分で読める
東大おうち塾コラム
読んだのに覚えられないのはなぜか。思い出す練習を3段階に分ける
参考書を3周しても模試で手が止まるのは、努力の量の問題ではありません。読み直しで伸びる記憶と、試験で使う記憶は別物です。再認・手がかり再生・自由再生の3段階で、勉強を「思い出す練習」に組み替える方法をまとめました。
野村 理玖
東大おうち塾 代表 / 東京大学 博士課程 / 公開 2026.07.31 / 更新 2026.08.17 / 6分で読める
目次
参考書を3周した。ノートもまとめた。それなのに、模試になると手が止まる。
頭には入っているはずなのに、という感覚だけが残ります。解説を読めば「ああ、これか」と思う。知っているのに、出てこない。
この差はどこから来るのか。読んだ量と点数がずれるのは、努力が足りないからではありません。読み直しで伸びるものと、試験で要求されるものが、別物だからです。
第01章読み直しで鍛えているもの
心理学では、記憶を取り出す働きを三つに分けます。再認、再生、再構成。
なお、読み直すより思い出すほうが後の保持に効くことは、査読を通った研究で繰り返し確認されています。2006年の実験では、読み直しを重ねた群よりテスト形式で思い出した群のほうが、時間が経ったあとに残っていました。2014年のメタ分析も同じ結論です。学習法の有効性をまとめた2013年の総説では、読み直しは有効性が低い方に、練習テストは高い方に分類されています。
出典: Roediger & Karpicke (2006) Psychological Science / Rowland (2014) Psychological Bulletin / Dunlosky ほか (2013) Psychological Science in the Public Interest(いずれも2026年8月17日にDOIを確認)
再認は、「見たことがある」と気づく段階です。テキストを読み返して、赤字の用語に見覚えがあると感じる。あれが再認です。
再生は、手元に何もない状態から、覚えた内容を取り出す段階です。因数分解の手順を、誰かに説明できる。
再構成は、覚えた要素を組み替えて、別の問題に応用する段階です。ある分野の考え方を、違う分野の問題に使う。
読み直しを何周しても伸びるのは、ほとんど再認だけです。ページを開けば、そこに答えが書いてあります。思い出す作業を、本が肩代わりしてくれている。
試験は再認では解けません。問題用紙には答えが載っていないからです。
第02章思い出す負荷を、段階で上げる
では、いきなり白紙に書き出せばいいのか。そうしたいところですが、順番があります。
再生には二種類あります。一問一答のようにヒントを見て思い出す手がかり再生と、白紙に向かって何もない状態から出す自由再生です。
負荷が違います。手がかり再生は、問題文が半分まで連れて行ってくれる。自由再生は、どこから始めるかも自分で決めなければいけません。
覚えた直後に自由再生をやると、白紙のまま10分が過ぎます。それは実力の測定にはなりますが、練習にはなりません。
暗記科目なら、こう進めます。
まずテキストを最速で1周する。もう1周読み直す。問題集を解く。テキストに戻る。最後に白紙へ書き出す。
再認から手がかり再生へ、そこから自由再生へ。段階を踏んで、思い出す負荷を上げていきます。
白紙に書き出すのは、どのタイミングでやればいいですか?
問題集を一度解き終えたあとです。手がかり再生ができるようになってから自由再生に移ると、白紙が「思い出せなかった箇所のリスト」になります。ここで出てこなかった項目だけを、次の復習に回します。
第03章暗記科目と計算科目で、順番は逆になる
同じやり方を数学に持ち込むと、うまくいきません。
計算科目で働くのは、自転車の乗り方に近い記憶です。言葉で説明できることと、手が動くことが一致しません。図の書き方も、途中式の並べ方も、繰り返して手に覚えさせるものです。
復習の間隔も変わります。ここで押さえておきたいのは、間隔に全科目共通の正解があるわけではなく、いつ試験があるかで最適な間隔が動くという点です。
分散学習のメタ分析では、詰めて復習するより間隔をあけたほうが保持がよくなることが示されています。さらに2008年の研究は、最適な間隔が「その知識をいつまで保ちたいか」に応じて伸びることを報告しました。1週間後の試験なら短い間隔、半年後なら長い間隔のほうが残る、という関係です。
出典: Cepeda ほか (2006) Psychological Bulletin / Cepeda ほか (2008) Psychological Science
そのうえで、当塾が実際に使っている目安を書きます。ここは研究から直接出た数値ではなく、上の原則を現場の予定に落とした運用です。暗記科目は1日後、3日後、1週間後と広げる。計算科目は午前と午後、翌日、3日後と、最初を詰める。試験までが遠い単元は、間隔を意識して長く取ります。
計算が苦手な人には、共通する癖があります。手を動かさないことです。
図を書かない。条件を書き出さない。頭の中だけで処理しようとする。
頭の中には、作業のあいだだけ数字を置いておく台のようなものがあります。広さには限りがあります。24×13を暗算するとき、この台の上には「24×13を計算している」「4×13は52」「20×13は260」を同時に置いておかなければいけません。台からあふれた瞬間、計算そのものではなく、置いておくほうで失敗します。
図を書く。途中式を書く。条件を紙に出す。作業台を空けるための手作業です。
この作業台は、心理学ではワーキングメモリと呼ばれます。短期的に情報を保持しながら、それを操作するための場所です。一度に保持できる項目数には限りがあり、意味のあるまとまり(チャンク)にすると同じ数でも扱える情報量が増えます。
出典: Miller (1956) Psychological Review / Baddeley (2012) Annual Review of Psychology(2026-08-17 にDOIを確認)
第04章忘却曲線を、そのまま信じない
復習の話になると、必ずエビングハウスの忘却曲線が出てきます。1日で7割忘れる、というあの図です。1885年に、エビングハウスが自分自身を被験者にして行った実験がもとになっています。
あの実験で使われたのは、意味を持たない三文字の綴りでした。縦軸も、覚えている割合ではありません。覚え直したときにどれだけ時間を節約できたか、という節約率です。
意味のない文字列を覚え直す速さの話を、歴史の因果関係や英文法にそのまま当てはめることはできません。忘れ方は、内容と覚え方で変わります。
だから復習の間隔に、全科目共通の正解はありません。苦手なものは同じ日に2回やる。得意になってきたものは間隔を空ける。自分の科目で、思い出せた回数を見ながら決めるほうが確かです。
第05章復習は、いつも最初から始めない
もうひとつ、間隔とは別に効くものがあります。どこから復習を始めるか、です。
参考書を毎回1ページ目から復習していると、前半に触れる回数だけが増えます。40ページを復習するなら、20ページから始めて最後まで進み、そのあと前半に戻る。順番を入れ替えるだけで、範囲内のムラが減ります。
この偏りには、系列位置効果という古典的な裏付けがあります。項目を順に見せて自由に思い出させると、最初と最後がよく残り、中央がいちばん落ちる。最初が残るのは長期記憶に移ったため、最後が残るのはまだ短期記憶にあるためと説明されます。しばらく時間をおいて思い出させると、最後が残る分は消え、最初だけが残ります。
出典: Glanzer & Cunitz (1966) Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior(2026-08-17 にDOIを確認)
ただしこの実験は単語リストを対象にしたもので、参考書40ページの復習と条件が同じではありません。ムラが出る向きは同じでも、そのまま当てはまるとは言えません。始める場所を変えるという対処は、この知見と、指導していて繰り返し見てきた偏りの両方から決めています。
順番を入れ替えるだけで、範囲内のムラが減ります。
分野の混ぜ方も同じです。因数分解だけを50問続けると、その日は正答率が上がります。ただし試験では、どの分野の問題かを自分で見抜くところから始まります。同じ分野の問題をまとめて解く練習から、分野を混ぜて解く練習へ、早めに移ったほうがいい理由がここにあります。
分野を混ぜると正答率が下がって不安になります。
下がるのが自然です。混ぜた瞬間に解けなくなるのは、解法そのものではなく「どれを使うか」の判断がまだできていないからです。試験で問われるのはその判断のほうなので、下がった状態で練習する価値があります。
第06章時間ではなく、終わった量で測る
最後に、目標の立て方です。
勉強時間を記録することには利点があります。積み上がった数字は自信になりますし、科目ごとの配分の偏りも見えます。
ただ、「今日は5時間やる」を目標にすると、机に座っていた時間が達成条件になります。5時間、読み直しだけをしても達成できてしまう。
目標は、終わった量で決めます。「この単元の問題を、解説なしで解けるようにする」「この範囲を白紙に書き出せるようにする」。どちらも、思い出せたかどうかで判定できます。
第07章今日から変えられること
読み直しは1〜2周でやめて、問題集に移る
問題集を一度解き終えたら、テキストを閉じて白紙に書き出す
暗記科目は復習の間隔を広げ、計算科目は最初を詰める
復習は毎回1ページ目から始めず、途中や後半から入る
目標は勉強時間ではなく、終わらせる量で決める
ここまでの順番を自分の科目に落とすところで詰まる人は多く、そこだけを一緒に決めるために講師をつけるという選び方もあります。何を確認して選べばいいかはオンライン家庭教師の選び方に、実際に点数が動いた生徒の取り組みは合格・成績向上の事例にまとめています。研究で確かめられている範囲の全体像は勉強法のまとめページに一覧にしました。
読んだ回数は、点数になりません。思い出した回数が、点数になります。
筆者
野村 理玖
東大おうち塾 代表 / 東京大学 博士課程
公開 2026.07.31 / 更新 2026.08.17
麻布高校卒業、東京大学 博士課程在学。公認会計士試験合格。認知心理学に基づく勉強のやり方を組み立て直した経験から、東大おうち塾を立ち上げました。