公開 2026.08.23 ・ 7分で読める
東大おうち塾コラム
解説は分かるのに解けない|数学が手で覚える科目である理由
解説を読めば分かる。それなのに試験になると手が止まる。原因はやる気でも理解力でもなく、覚えている場所が違うことにあります。英単語と自転車の乗り方が別の仕組みで覚えられているのと同じ話です。
野村 理玖
東大おうち塾 代表 / 東京大学 博士課程 / 公開 2026.08.23 / 7分で読める
目次
解説を読めば分かる。それなのに、模試になると手が止まる。文系で数学に苦しんでいる人の多くが、この繰り返しの中にいます。
原因はやる気でも理解力でもありません。記憶の仕方が違うだけです。
第01章分かることと、解けることは別の能力
解説を読んで納得する力と、白紙から答案を書く力は、別々に鍛える必要があります。前者は読むことで得やすく、後者は実際に手を動かすことで身につきます。
英単語や年号は、言葉にできる記憶です。「1600年、関ヶ原」と口に出せれば覚えたことになります。
自転車の乗り方はどうでしょうか。どうやってバランスを取っているか、言葉で説明できる人はほとんどいません。それでも体は覚えていて、何年ぶりでも乗れます。
認知心理学では前者を宣言的記憶、後者を非宣言的記憶(手続き記憶)と呼び、脳の中で別の仕組みとして扱います。
宣言的記憶 | 手続き記憶 | |
|---|---|---|
中身 | 事実・言葉にできる知識 | 体の動かし方・手順 |
例 | 英単語、年号、公式の形 | 自転車、楽器、数学の解法 |
覚え方 | 読む・聞く | 実際にやる |
確かめ方 | 言えるか | できるか |
数学の解法は後者に近いと考えると、うまく説明がつきます。「整数問題では合同式を使う」と言えることと、法を7に決めて余りを実際に書き出せることは、まったく別の能力だからです。
なお、記憶の分類そのものは認知心理学の一般的な区分ですが、「数学の解法が手続き記憶である」と実験で確かめられているわけではありません。ここでは説明のための類推として使っています。
第02章読んで分かった気になるのが危ない理由
解説を読んでいる間は、次の一手が常に目の前にあります。自分で選んでいないので、選ぶ力は鍛えられていません。
試験で必要なのは、白紙を前にして最初の一手を自分で決めることです。解説を読む作業には、この「決める」部分がまるごと欠けています。
しかも読んでいる最中は理解できている感覚が強く出るので、できるようになったと錯覚しやすい。本人がこの錯覚に気づかないまま、模試を迎えることがあります。
第03章1問を「1問」と数える基準を変える
解説を読んだあと、何も見ずに白紙から解き直せたところで初めて1問と数えます。読んで終わりにしないための基準です。
東大おうち塾ではこの数え方を使っています。手順は3つです。
自力で解く。詰まったら、どこで詰まったかを書き残してから解説を見る。
解説を読む。次の一手をなぜそう選んだのかまで追う。
解説を閉じ、白紙に最初から書く。ここまでやって1問。
3が抜けている人がほとんどです。ここを足すだけで、同じ問題数をこなしても残り方が変わります。
1問にかかる時間は増えます。そのぶん、学んだ問題を試験で再現しやすくなります。読み流した10問より、書き直した3問のほうが本番で役に立ちます。
第04章同じ問題を3回やるのは無駄ではない
手続きの記憶は繰り返しで定着します。同じ問題を繰り返し書くほうが、新しい問題を読むより解法の定着に役立つ場合があります。
新しい問題を解くのは楽しく、進んでいる感覚も得られます。ただし手が覚えるのは、繰り返した動作のほうです。
目安として、間隔をあけて3回書き直せると、その問題の型は手に残ります。間隔のあけ方は復習はいつやるかに書きました。
第05章よくある質問
解説を読むのは無駄ということですか。
無駄ではありません。読まなければ型は手に入りません。問題は、読んだところで止めてしまうことです。読んだあとに白紙から書き直すところまでをセットにしてください。
白紙から書き直す時間がありません。
問題数を減らし、書き直しを優先してください。全部を書き直す必要はなく、詰まった問題だけで構いません。
答えを覚えてしまって、書き直しにならない気がします。
答えを覚えていても構いません。答えを知っていても、解法の手順を再現する練習にはなります。むしろ迷わず書けるようになった状態が目標です。
数学以外の科目でも同じですか。
記述式の科目にも似た面があります。国語の記述や英作文も、読んで分かることと自分で書けることが別です。一方、英単語や年号のような知識は宣言的記憶なので、思い出す練習のほうが役に立ちます。
第06章まとめ
解説が分かることと、白紙から書けることは別の能力。
数学の解法は手続きに近く、手を動かした回数でしか増えない。
解説を読んだあと白紙から書き直して、初めて1問と数える。
同じ問題を間隔をあけて3回書き直すと、型が手に残る。
どこで手が止まるかは、答案を見れば分かります。東大おうち塾の文系数学の専門指導では、初回60分の体験授業を無料で行っています。いまの答案を持ってきていただければ、書き直しの回し方をその場で組み立てます。
筆者
野村 理玖
東大おうち塾 代表 / 東京大学 博士課程
公開 2026.08.23
麻布高校卒業、東京大学 博士課程在学。公認会計士試験合格。認知心理学に基づいて自分の勉強のやり方を組み立て直した経験から、東大おうち塾を立ち上げました。